著書紹介
『音楽史17の視座』(共著、音楽之友社、1998年)
古代ギリシャから現代ポピュラー音楽までを含む17章で構成され、作品を基本的な拠りどころとして、文化現象としての音楽に広範な視点から光をあてる。全体はプレリュード「音楽とは何か」、第一部「音楽と思想」、第二部「音楽と諸芸術」、第三部「音楽と社会」、第四部「音楽史の原理」、及びポストリュード「モダニズムとポストモダニズムの相克」から成り、歴史、美学、社会学などが交差するところから音楽への新たな視座を開く。鳴海史生氏との共著。
『ビートルズ音楽論―音楽学的視点から―』(東京書籍、1999年)
音楽学的手法をビートルズに適用した本格的な研究書。ビートルズの出現は若者文化が台頭する時代と重なり、その音楽は新しい世代の自己表現・自己確認として出発した。かつて新大陸で解放された黒人の表現様式であったブルースの要素が、若者の世代の台頭という歴史的文脈で蘇るのである。しかしビートルズの音楽はそこからの発展を遂げ、社会的・時代的な流れとも呼応し、実存的ともいえる存在への問いを音楽に刻みつけていく。その軌跡を多角的・多層的に追いながら、全作品の分析を通して、ビートルズ現象を包括的に解明する。
『21世紀の音楽入門』(共著、教育芸術社、2002-5年)
本書は音楽美学、音楽史、音楽社会学等のさまざまな視点をとり込んだ新しい音楽入門書で、広範かつゆたかな音楽教養の土台を提供すべく企画された。筆者が担当したのは「20世紀の名曲『イエスタデイ』の真実―クラシックのサウンドとロックの出会い―」の項目(26-35頁)。ビートルズの音楽にジャンルを超えた表現世界を確認し、音楽研究の方法論を提示する。他の執筆者は石澤眞紀夫、関根敏子、白石美雪等ほか。 「人間・音・響き」 「リズム ―音楽に生命を与えるもの」 「声 ―魂をゆさぶるもの」「旋律 ―時を紡ぐもの」 「踊り ―身体をとおして語るもの」 「ハーモニー-色彩を彩るもの」 「音楽の力 ―生とともに在る」
『名曲に何を聴くか』(音楽之友社、2004年)
音楽を音楽以外の情報から解説するのではなく、音楽を音楽として感じ、理解し、愉しむための術を提示する「鑑賞の手引き書」である。そのために、音楽理論、アナリーゼ、音楽史、音楽美学などの音楽についてのあらゆる知識が動員されるが、常に「名曲」を題材とし、楽譜上で「音楽的なもの」が具体的に記述される。全体は「音楽とテンポ」「拍子とリズム」「旋律」「音組織と調性」「オーケストラの楽器」「総合的分析」の6章から成り、鑑賞法だけでなく、作品と演奏へのアプローチを深め、音楽体験をゆたかにするであろう。多数の譜例を収録。
『新 名曲が語る音楽史』(音楽之友社、2008年)
2000年に出版された『名曲が語る音楽史』の改訂版。音楽作品の分析を通して西洋音楽史を再構築する。いわゆる名曲は歴史の証言であるとともに、時代の代弁者でもあり、普遍的な真実をも語る。そうした作品から歴史を構築することで、音楽史への生きた視点を提供する。グレゴリオ聖歌から現代のポピュラー音楽までがとりあげられており、アプローチの方法もアナリーゼを根底に据えて、解釈学的方法から社会学的方法まで多彩である。こうした方法論を応用することで、さらにさまざまな音楽理解や歴史認識が可能となるであろう。「機能和声について」と「西洋文化・音楽史年表」を巻末に納める。
『名曲名演論』(アルファベータ社、2008年)
本書のもとになったのは、平成16年から2年間、『クラシック・ジャーナル』誌(アルファベータ社)に掲載された「名曲の秘密、名演の秘訣」の論稿である。その14編に加筆・訂正を加え、さらに「長いまえがき―モーツァルトの《40番》をめぐって―」を書き下ろし、一冊にまとめた。いわゆる名曲といわれる楽曲のさまざまなCDを紹介しながら、音楽を論じる。スコアは音となって初めて「音楽」たりうるという基本的なスタンスに立ち、楽譜の解釈や楽曲のアナリーゼから、美学的考察に至る、幅広い議論を包括的に展開。個々の名曲の「聴きどころ」「聴き方」を具体的に説明するとともに、「音楽の素晴らしさ」という原点を確認する。
『交響曲入門』(講談社、2011年)
クラシック音楽の最高峰ともいえる交響曲の歴史を辿りながら、名曲を紹介する。第1章「誕生」、第2章「交響曲の雛形-ハイドン」、第3章「交響曲の確立-モーツァルト」、第4章「ベートーヴェン」、第5章「ポスト《第九》」、第6章「ロマン派交響曲」、第7章「ブルックナーとマーラー」、第8章「国民楽派のシンフォニストたち」、第9章「20世紀と交響曲の未来」の9章から成る。とくにここでは音楽を「形式で聴く」ことを提案し、代表的な作品については、ソナタ形式の図式の中で、曲の特徴や作者の創意を指摘し、音楽の聴きどころを紹介する。巻末にディスク・ガイド付き。
『CD付徹底図解クラシック音楽の世界』(新星出版社、2011年)
名曲によるクラシック入門に西洋音楽史、さらに楽曲分析などさまざまな要素をフルカラーの図解で解説する本。CD付き。「クラシック音楽って何?」から始まる項目でクラシック音楽の基礎知識を確認し、グレゴリオ聖歌からサティに至る時代とジャンルを代表する名曲24曲が紹介される。これらの楽曲が図を見ながら、また付録のCDを聴きながら理解でき、楽しめる。それぞれの時代の文化や他分野の芸術についての解説もあり、美術などの図解も豊富である。楽典や和声の知識などを紹介するコラムも多数。巻頭に作曲家25人分の肖像画つき。
『音楽とは何か』(講談社、2012年)
音楽という芸術の本質を総合的な視点から問う試み。視点は七つからなり、それぞれの章で論じられる。第1章「音楽とは魔法である」、以下、第2章「システム」、以下第3章「表現」、第4章「リズム」、第5章「旋律」、第6章「ハーモニー」、第7章「コミュニケーション」、そして最後「エピローグ」となる。音楽についてのこれまでの諸説を紹介しながら、音楽がもつさまざまな側面を分析的に明らかにする。最後に人間の認識能力として悟性の働きが「対象化」と「異化」なのに対し、対象との一体化の機能を音楽に見る。それはヒトを人間にしたものだった。
『文化としての西洋音楽の歩み-わたし探しの音楽美学の旅-』(音楽之友社、2013年)
『音楽史17の視座』(1998)の全面改訂版。トピック集だった前書に先史時代から現代までの歴史の軸を据え、「わたし探し」というテーマを織り込んだ。新たな書き下ろしの部分は「プレリュード 先史時代の音楽」「バロック第2章 音楽の劇化」「ロマン派第3章 夢と現実」「現代第2章 他者の発見」「ポストリュード わたし探しの旅の終点」の5項目だが、以前の部分も大幅に書き換えられている。結果として、哲学・音楽美学の項目が厚くなり、また分析的な手法はいっそう強化・発展され、「文化としての」西洋音楽の歩みを縦糸に、わたし探しを横糸に織り合わせることになった。