カミサンは神様?―シベリウス交響曲第7番

ご存知のとおり、シベリウスは交響曲を7曲遺した。最後の第7番作品105は、1924年、58歳で完成された。翌年、交響詩『タピオラ』が生まれたが、この後、奇妙なことに、以後91歳で亡くなるまで、主要な作品はほとんど発表されなかった。シベリウスは7番について「人生の喜びと」と呼んだという。

デビュー作『クレルボ交響曲』ですでに名声を勝ち得、シベリウスはやがて一線を退いた。ヘルシンキ郊外で、奥さんの名にちなんだ住居を構え、そこを生涯の地としたのだった。その奥さんの名前はアイノ・ヤルネフェルト。実は彼女は音楽的肖像として交響曲第7番に登場するのである。

曲は一続きの1楽章形式である。ただしいくつかの部分から成り、最初はアダージョで始まる。静かなティンパニの響きに続いて、上昇する音階から曲は徐々に盛り上がる。そしてクライマックスで(記号Cの7小節後)、トロンボーンのソロがアイノの主題を歌い上げる。スコアを引用しておこう。

この交響曲の主要な、ほとんど唯一ともいえる主題であり、シベリウス自身がスケッチで Aino と書き記していたという。

アイノの主題は、この後、テンポが速くなった部分でも断片的に現れ、最後のアダージョで再びトロンボーン・ソロで登場する(記号Xの後)。譜例赤の2小節目からのドーレーミーレの音型は、半音階的にファ♯ーソーラ♭ーソに音程を変えられ「Affettuoso(愛情を込めて)」と指示さえたりもする。冒頭のレ-ドの音型をちりばめて、曲は終わる。この曲でシベリウスは何がいいたかったのだろう?

アイノの主題を吹くトロンボーンは、伝統的に教会の楽器であり、宗教的な儀式や場面で用いられた。世俗を超えた神聖な楽器、それがトロンボーンだった。シベリウスがあの主題をトロンボーンのソロに委ねたことに意味を見いださないわけにはいかない。やはりシベリウスにとってカミサンは神様だったのか。